かつてのクレームは、商品の不具合やサービスの不備といった具体的な改善要求が中心でした。
「改善してほしい」「補償を受けたい」といった明確なゴールがあり、誠実に対処すれば比較的収束しやすかった――。
しかし近年、現場の実感としてクレームの質が変わっています。本稿では、その変化の中身と背景、そして企業がとるべき打ち手を広報・CS実務の視点で整理します。
1) 感情の承認要求が強まっている
最近は「商品を直してほしい」というよりも、
「自分が不快に感じたことを分かってほしい」 という訴えが増えています。
例:「説明はいいから“誠意”を見せて」「態度が気に入らない」
2) 過剰な要求や人格攻撃が混ざる
「上司を出せ」「無償にしろ」「家まで謝罪に来い」など、
本来の内容から外れた要求が普通に出てくるようになりました。
担当者を名指しで責めたり、長時間拘束したりといったカスハラ的な態度も目立ちます。
3) “企業に声を届ける”から“自分を正当化する”へ
「企業が悪い、自分は正しい」という形を強調するケースが増えています。
例:「これは正当な苦情だ(=過大な要求や感情的な部分を正当化する)」「SNSやレビューで自分の正しさを証明したい」
※ここでは「クレーマー」ではなく、**「正当な苦情」**という言い方に統一します。
なぜ変わったのか ― 4つの背景
- 社会的ストレスの増加
物価高や生活不安でイライラがたまりやすく、小さな不備が怒りのきっかけに。 - 人手不足による接客のばらつき
短時間バイトやスポット人材が増え、サービスの質に差が出やすい。 - SNSやレビュー文化の広がり
投稿や拡散が簡単で、「声を上げれば企業が動く」という感覚が定着。 - カスハラへの意識の浸透
企業が従業員を守る動きが強まる一方で、逆に「自分の苦情は正当だ」と主張する人が増えている。
実務で役立つ「線引き」フレーム
軸A:要求の内容(正当/不当) × 軸B:言い方・態度(穏やか/過剰)
- 正当 × 穏やか → 通常の補償・改善対応
- 正当 × 過剰 → 内容は対応するが、言動には境界を設定
- 不当 × 穏やか → 説明と代替案の提示
- 不当 × 過剰 → 即座に中断・二次対応へ(上席・専門部署・外部窓口)。記録も残す
👉 ポイントは 「内容」と「言動」を切り分けて対応すること です。
フロントラインのための一次対応プレイブック
- 受け止める(感情の承認)
「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。まず状況を正確に伺います。」 - 整える(事実の確認)
「いつ・どこで・何が・どの程度」を冷静に確認。
同時に「一次対応は〇分ほどで区切らせていただきます」とやんわり伝える。 - 決める(対応方針の提示)
- 正当性がある場合 → 交換や返金など具体的に説明
- 正当性が弱い/要求が過大 → できない理由と代替案を提示
- 攻撃的・威圧的 → 中断基準に従い二次対応へ切替
使えるフレーズ例
- 「お気持ちは受け止めます。ただ、できることとできないことを明確にご説明します」
- 「公正な対応のため、一度区切りをつけて、必要な点は書面でご案内します」
運用面で大事なこと
- ルールを公開してわかりやすく
受付時間・対応範囲・中断基準などを社外に明示。 - 受付段階で仕分ける
一般の問い合わせと苦情を分岐し、二次対応は専門担当や外部窓口へ。 - ログを残して見える化
事実/感情/要求/態度を整理し、ダッシュボードでトレンドを把握。 - 人材育成とケア
シナリオ研修・ロールプレイで備えつつ、担当者のメンタルも守る。 - KPIの設定
初回応答時間、完結率、拘束時間、中断件数などを数値で追う。
ケースで見る具体例
- 小売:サイズ違い → 「誠意がない」と感情訴求に発展
→ 感情を受け止めた上で交換/返金、過剰要求には線引き - 飲食:待ち時間 → 「店員の態度が悪い」へ展開
→ 責任者が謝罪と改善案提示、長時間拘束は中断基準で切替 - 観光レンタル(着物など):汚れ・着崩れ → 追加請求への不満に拡大
→ 事前説明の改善、当日は代替品や再着付けで即対応
共通するのは 「承認(感情)→確認(事実)→判断(方針)」 という流れです。
企業が取るべき7つの対応
- 正当な苦情と過剰な要求を仕分ける基準を作る
- 境界ルール(時間・言葉・要求範囲)を社外にも示す
- 一次対応マニュアルをアップデート
- 中断・切替の明確な基準を持つ
- 専門部署や外部窓口と連携できる仕組みを常設
- データを集め、再発防止に活かすサイクルを回す
- 従業員を守る制度と文化を整える
まとめ
いまのクレームは「改善のお願い」から「自己表現」へと変わっています。
キーワードは、
- 感情の承認要求
- 過剰要求や人格攻撃
- 自己正当化の強まり
企業に必要なのは、正当な声には真摯に応じ、過剰な要求には線を引く勇気。
「承認 → 確認 → 判断」の順番を守りながら、できること・できないことをはっきり伝えることが、顧客と従業員の信頼を守るカギです。
外部窓口の活用も選択肢に
すべてを社内で抱えるのは難しい場合、第三者の外部相談窓口を用意するのも有効です。
CWSの**「お客様相談窓口代行」**では、
- 感情を受け止めつつ事実を整理するヒアリング
- ログの標準化と見える化
- 必要に応じた二次対応・遮断基準の運用
を通して、現場の負担を減らしつつ再発防止に役立てています。