「クレーム対応の電話で売上は上がらない」……本当にそうでしょうか?
「カスタマーサポートは、1円も稼がないコスト部門だ」
「問い合わせの電話なんて、少なければ少ないほど良い」
社内でこのように言われたり、予算削減の対象にされたりして、悔しい思いをしたことはないでしょうか。
確かに、お客様相談室は営業担当者のように、分かりやすい契約や売上を直接つくる部署ではありません。
毎月の人件費やシステムの維持費ばかりが目につき、「利益を生み出さない部署」という印象を持たれがちです。
しかし、年間何百件、何千件というお客様と直接対話しているのは、社内のどの部署でしょうか。
経営層でも、商品開発部門でも、マーケティング部門でもありません。
お客様と最も近い場所で、日々、生の声を受け取っているのがお客様相談室です。
この現場に蓄積される声を、単なる問い合わせ処理で終わらせるのか。それとも企業の貴重な情報として全社へ還元するのか。
その違いによって、企業の成長には大きな差が生まれます。
「売上を伸ばす」より重要な「売上を減らさない」という視点
企業の利益を増やす方法というと、新しいお客様を獲得して売上を伸ばすことが重視されます。
しかし、利益を守るうえでは、今いるお客様に離れられないようにすることも同じくらい重要です。
例えば、商品やサービスに不満を感じたとき、何も言わずに利用をやめるお客様と、わざわざ電話や問い合わせフォームから「ここが使いにくい」と伝えてくれるお客様がいたとします。
企業にとって、より大切にすべきなのは、後者のお客様です。
お客様相談室へ連絡をくださる方は、単に不満をぶつけたいのではなく、「改善してくれるなら、今後も利用したい」というシグナルを出している場合があります。
ところが、その連絡に対して説明が不十分だったり、対応が遅かったり、担当者によって案内が異なったりすれば、お客様の不満はさらに大きくなります。
その結果、解約や利用停止につながるだけでなく、SNSや口コミサイトに否定的な評価が投稿される可能性もあります。
一方で、迅速かつ誠実に対応し、お客様の不安や不満を解消できれば、企業への信頼を回復できることがあります。
場合によっては、問題が起きる前よりも企業への評価が高まり、長く利用してくださるお客様になることもあります。
お客様相談室の担当者が、一回の対応で解約を防いだのであれば、それは将来失われるはずだった売上を守ったことになります。
利益を生み出すとは、新たな売上をつくることだけではありません。失うはずだった売上を守ることも、企業にとって重要な利益です。
商品開発部門が求める「現場のヒント」
新しい商品やサービスを企画するとき、社内の会議だけで結論を出してしまうと、実際のお客様が感じている不便や不満を見落とすことがあります。
お客様相談室には、日々、次のような具体的な声が届きます。
- 説明書の文字が小さくて読みづらい
- 決済画面でエラーが出て購入を諦めそうになった
- 商品の開け方や使い方が分かりにくい
- もう少し軽ければ周囲にも勧めやすい
- 問い合わせ先が見つけにくい
これらは単なる不満ではありません。
どこを改善すれば商品やサービスがさらに利用されやすくなるのかを教えてくれる、重要なヒントです。
例えば、同じ商品について「説明が分かりにくい」という問い合わせが繰り返し寄せられている場合、担当者が毎回説明して解決するだけでは根本的な改善にはなりません。
説明書やパッケージ、Webサイトの案内を見直すことで、問い合わせ件数そのものを減らせる可能性があります。
また、購入途中の画面で同じエラーが発生しているのであれば、問い合わせをせずに購入を諦めているお客様が、ほかにもいるかもしれません。
お客様相談室に集まった声を商品開発やWeb担当者、営業部門、経営層へ共有することで、売上を妨げている原因を早い段階で見つけられるようになります。
お客様の声「VOC」は企業の財産
お客様から寄せられる意見や要望、苦情、問い合わせなどを総称して、VOC(Voice of Customer)と呼びます。
VOCには、次のようなさまざまな情報が含まれています。
- 商品やサービスへの不満
- 使い方に関する疑問
- 改善してほしいポイント
- 新しい機能やサービスへの要望
- 店舗や従業員への評価
- お褒めの言葉
重要なのは、これらの声を受け付けたままにしないことです。
問い合わせ内容を分類し、どのような声が多いのか、どの商品やサービスに集中しているのかを分析することで、企業が優先して改善すべき課題が見えてきます。
一件だけでは個人的な意見に見える内容でも、同じ声が何十件も集まっていれば、企業が対応すべき明確な課題です。
反対に、お褒めの言葉や高く評価された対応を分析すれば、自社の強みを把握し、今後の販売促進やサービス設計に活用できます。
VOCは、受け付けて終わるものではなく、分析し、共有し、改善につなげることで初めて企業の財産になります。
お客様相談室を「収益の要」に変えるための3つの取り組み
では、どうすればお客様相談室を、企業の利益に貢献する「頼れる経営資源」へ変えられるのでしょうか。
ポイントは、「電話を受ける場所」から「情報を集め、社内へ還元する場所」へと役割を広げることです。
1.問い合わせの傾向をデータ化する
単に「何件対応したか」だけを記録するのではなく、問い合わせの内容や原因を分類します。
- どの商品への問い合わせが多いのか
- どのような不満が繰り返されているのか
- Webサイトのどこで迷っているのか
- どの年代のお客様から多く寄せられているのか
- 解約や返品につながる原因は何か
こうした情報を継続して記録することで、商品やサービスの課題が見えやすくなります。
2.他部署への共有ルートをつくる
お客様相談室だけが課題を把握していても、企業全体の改善にはつながりません。
商品開発、営業、品質管理、広報、Web担当者など、関係部署へ定期的にVOCを共有する仕組みをつくることが重要です。
週次や月次で問い合わせ傾向をまとめ、特に重要な声や増加している問い合わせを報告することで、早い段階で対策を検討できます。
3.「守った売上」を可視化する
お客様相談室の成果は、対応件数だけでは正しく評価できません。
可能であれば、次のような成果も記録します。
- 解約を防止できた件数
- 返品や返金の拡大を防いだ件数
- 二次クレームを防止できた件数
- VOCをもとに改善された商品やサービス
- 問い合わせ削減につながった改善策
- お客様から寄せられた評価や感謝の声
こうした成果を社内で共有することで、お客様相談室が企業の利益や信頼にどれだけ貢献しているかを示しやすくなります。
対応に追われるだけでは、貴重な声を活かせない
お客様相談室の重要性を理解していても、実際の現場では、次々と入る電話やメールへの対応だけで一日が終わってしまうことがあります。
問い合わせ件数が多く、担当者が不足している状態では、VOCの分類や分析、社内への報告まで手が回りません。
また、難しいクレームや長時間対応が重なることで、担当者が疲弊し、対応品質が低下してしまう可能性もあります。
そのような場合には、問い合わせ受付や一次対応、お客様の声の分類、レポート作成などを外部へ委託する方法もあります。
社内の担当者がすべての問い合わせ対応を抱えるのではなく、外部相談窓口を活用することで、社内は重要な判断や商品・サービスの改善に集中しやすくなります。
お客様相談室は企業の「目」であり「耳」である
お客様相談室は、決して「申し訳ございません」と頭を下げ続けるだけの場所ではありません。
市場の変化をいち早く察知し、商品やサービスの課題を見つけ、企業の信頼を守る最前線です。
そして、お客様の声を正しく分析し、社内へ還元することができれば、次の商品開発やサービス改善、解約防止、顧客満足度の向上へつなげることができます。
まずは週に一度でも、「今週多かったお客様の声」を社内で共有することから始めてみてはいかがでしょうか。
その小さな取り組みが、お客様相談室を「コスト部門」から、企業の利益と信頼を支える頼もしい部門へ変えるきっかけになります。
お客様相談室は、単にクレームを受ける部署ではありません。
お客様の声を企業の利益へ変え、失われる利益を守る重要な経営資源です。
