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「お客様は神様」という言葉はもう古い!? 近年増加するカスタマーハラスメント(カスハラ)は、企業の対応次第では、従業員の精神を蝕み、最悪の場合、労災認定にまで発展する深刻な問題です。実際に、暴言や理不尽な要求などによって、精神疾患を発症し、労災が認められるケースも出てきています。厚生労働省の発表では、2023年度のカスタマーハラスメントによる労災認定数は52件で、今後は益々増加していくものと見られています。
この記事では、カスハラの実態から、企業が取るべき対策、そして、個人でできる対処法まで、具体的な事例を交えながらわかりやすく解説します。
カスハラ(カスタマーハラスメント)とは?
「カスハラ」とは、「カスタマーハラスメント」の略称で、顧客による悪質な迷惑行為を指します。一部の人が持つ「お客様は神様」という意識による、過剰な要求や暴言をが後を絶ちません。近年、その件数は増加傾向にあり、企業や従業員にとって深刻な問題となっています。
定義と具体的な事例
カスタマーハラスメントの明確な定義は法律で定められていませんが、一般的には「企業の従業員などに対し、業務の適正な範囲を超えて、不快感を与える言動を行うこと」とされていて、具体的な事例としては、以下のようなものが挙げられます。
度を超えたクレーム
商品やサービスに問題がなくても、必要以上に罵声を浴びせたり、返金を要求したりする行為。些細なミスを執拗に責め立てたり、長時間にわたってクレームを繰り返したりするケースも含まれます。
従業員への誹謗中傷
従業員の人格を否定するような発言や、容姿・性別に関する侮辱的な言動。ソーシャルメディア上で従業員の個人情報を拡散したり、事実無根の悪評を書き込んだりする行為も該当します。
無理な要求
店の営業時間外での対応や、法律や社内規定に反するサービスの提供を強要する行為。従業員のプライベートな時間や空間を侵害するような要求も含まれます。
暴力や脅迫
従業員に対して暴力を振るったり、危害を加えることを示唆したりする行為。物を投げつけたり、店内の備品を破壊したりする行為も該当します。
これらの行為は、従業員の精神的な苦痛だけでなく、企業の業務効率の低下やイメージの悪化にもつながる可能性があります。
法律やガイドラインでの位置づけ
カスタマーハラスメントに対する明確な法律はまだありませんが、関連する法律やガイドラインが存在します。
労働契約法
使用者は、労働者が安全で健康的に働くことができるよう配慮する義務があります。カスタマーハラスメントによって従業員の心身に悪影響が及ぶ場合、使用者は適切な対策を講じる必要があります。(厚生労働省:労働契約法)
労働安全衛生法
事業者は、職場における労働者の安全と健康を確保する義務があります。カスタマーハラスメントが原因で従業員が精神疾患などを発症した場合、労災認定される可能性があります。(厚生労働省:労働安全衛生法)
民法上の不法行為
カスタマーハラスメントが、暴言や脅迫、名誉毀損など、違法性を帯びる場合には、民法上の不法行為責任を問われる可能性があります。(法務省:民法)
消費者契約法
事業者は、消費者に対して、優越的な立場を利用して不当な要求をしてはなりません。カスタマーハラスメントの内容によっては、消費者契約法に違反する可能性があります。(消費者庁:消費者契約法)
これらの法律やガイドラインを踏まえ、企業は従業員が安心して働ける環境を作るための対策を講じる必要があります。
労災認定されるカスハラの基準
カスタマーハラスメントによって精神疾患を発症し、労災認定されるケースが増えていますが、どのような場合に労災が認められるのでしょうか?ここでは、労災認定の基準や具体的な事例について解説します。
精神疾患とカスハラの因果関係
労災認定を受けるには、業務と精神疾患との間に因果関係が認められる必要があります。カスハラの場合、顧客からの理不尽な要求や暴言などによって強い精神的ストレスを受け、うつ病などを発症することが少なくありません。しかし、単に精神疾患を発症しただけでは労災とは認められません。業務内容、労働時間、職場環境、カスハラの程度などを総合的に判断し、業務によって精神疾患を発症したと認められる場合にのみ労災認定がされます。
厚生労働省が定める「心理的な負担の程度を把握するための検査等」では、職場における強い心理的負荷と精神障害の発症リスクを評価する上で参考となる、いくつかの心理的負荷評価表が紹介されています。これらの評価表を用いることで、客観的な指標に基づいた判断材料を得ることが期待できます。
労災認定の事例
具体的な労災認定事例としては、以下のようなものがあります。
- 顧客からの暴言や脅迫が日常的に続き、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症した事例
このケースでは、顧客からの度重なるハラスメントが原因で、従業員は日常生活にも支障が出るほどの深刻な精神状態に陥っていました。業務内容と精神疾患との因果関係が明確であったため、労災として認められました。 - クレーム対応に追われ、過重労働によりうつ病を発症した事例
企業側が適切な人員配置や対応マニュアルを整備していなかったため、従業員一人にかかる負担が大きくなり、精神疾患を発症するに至ったケースです。このようなケースでは、企業側の安全配慮義務違反も問われる可能性があります。
これらの事例からわかるように、労災認定されるかどうかは、個々のケースによって大きく異なります。そのため、もしカスハラによって心身に不調をきたした場合には、一人で悩まずに、医師の診断を受ける、会社に相談する、労働基準監督署に相談するなど、適切な対処をすることが重要です。
企業がカスハラ対策をする重要性
企業がカスハラ対策を積極的に行うことは、もはや企業努力やCSR活動の域を超え、社会的責任として認識される時代になりつつあります。カスハラは従業員の精神衛生を著しく損ない、企業活動にも大きな悪影響を及ぼす可能性があります。企業は、従業員を守り、健全な事業運営を継続していくためにも、カスハラ対策に真剣に取り組む必要があります。
企業の社会的責任とコンプライアンス
企業は、労働安全衛生法に基づき、従業員が安全で健康に働くことができる環境を提供する義務を負っています。カスハラは、従業員の心身に深刻な影響を与える可能性があり、企業には、これを防止するための適切な措置を講じる法的責任があります。また、近年では、ハラスメントに対する社会的な関心が高まっており、企業は、顧客だけでなく、従業員の人権も尊重し、その安全と健康を確保する責任を果たすことが求められています。企業がカスハラ対策を怠ると、社会的批判を受け、企業イメージやブランド価値を大きく損なう可能性があります。企業は、コンプライアンスの観点からも、カスハラ対策を徹底する必要があります。
従業員を守るための対策
カスハラは、従業員の精神的ストレスを高め、うつ病やPTSDなどの精神疾患を引き起こすリスクがあります。また、カスハラによって従業員のモチベーションやエンゲージメントが低下し、生産性やサービスの質の低下にもつながる可能性があります。企業は、従業員が安心して働ける環境を提供するために、カスハラ対策を積極的に行い、従業員の心身の健康を守ることが重要です。従業員が安心して働ける環境は、従業員の定着率向上にも貢献します。離職率の低下は、採用コストの削減にもつながり、企業にとって大きなメリットとなります。また、従業員が安心して働ける環境は、企業にとって貴重な人材の流出を防ぐことにもつながります。
企業イメージの向上
企業がカスハラ対策に積極的に取り組むことは、顧客からの信頼獲得にもつながります。顧客は、企業が従業員を大切にする姿勢を見ることで、その企業の商品やサービスに対しても、より一層の信頼を寄せるようになります。また、企業がカスハラ対策に積極的に取り組むことは、求職者にとっても魅力的な企業として映ります。優秀な人材を獲得するためにも、カスハラ対策は重要な要素となります。
参考資料:厚生労働省:カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
具体的なカスハラ対策
カスハラは企業と従業員が一体となって対策に取り組むことが重要です。具体的な対策として、以下の点が挙げられます。
従業員への教育と研修
従業員一人ひとりがカスハラに対する正しい知識と対応を身につけることが重要です。顧客対応の際に、どのような言動がカスハラに該当するのか、どのように対応すべきかを理解しておく必要があります。具体的な内容としては、以下の様なものが考えられます。
- カスハラの定義や種類、法律やガイドライン
- 発生時の具体的な対応方法、報告・相談の仕方
- 精神的なストレスへの対処法、リフレッシュ方法
研修方法としては、座学だけでなく、ロールプレイングを取り入れることで、より実践的な対応力を養うことができます。また、外部の専門機関による研修も有効です。eラーニングなどを活用し、従業員が自分のペースで学習できる環境を整えることも重要です。
対応マニュアルの作成と周知
カスハラが発生した場合の対応をマニュアル化することで、従業員が冷静かつ適切に対応できるようサポートします。マニュアルには、以下の様な項目を含めるようにしましょう。
- カスハラに該当する言動の具体例
- 対応のフローチャート(警告、中断、退店要請など)
- 関係部署への報告・連絡体制
- 従業員のメンタルヘルスサポート
作成したマニュアルは、従業員がいつでも参照できるよう、社内イントラネットなどに掲載したり、定期的な見直しを行い、常に最新の状態に保つことが重要です。
記録や報告体制の整備
カスハラ発生時の状況を記録しておくことは、その後の対応や再発防止、場合によっては労災認定の証拠としても重要になります。記録には、以下の様な項目を含めるようにしましょう。
- 発生日時、場所、状況
- 顧客の言動(可能な限り具体的に)
- 対応した従業員の名前、対応内容
また、記録した内容は適切に報告・共有される体制を整えることが重要です。報告を受けた上司は、状況を把握し、適切な指示やサポートを行う必要があります。記録を残す方法としては、専用の報告書を作成する、業務日報に記載する、顧客管理システムに入力するなどの方法があります。重要なのは、記録しやすい環境を整え、従業員が報告しやすい雰囲気作りをすることです。
物理的な安全対策
従業員の安全を確保するために、物理的な安全対策も重要です。具体的な対策としては、以下の様なものが考えられます。
- 顧客との間にパーティションやカウンターを設置する
- 防犯カメラや警備員を配置する
- 緊急通報装置を設置する
特に、窓口業務など、顧客と直接接する機会が多い職場では、これらの対策を積極的に導入することで、従業員が安心して業務に集中できる環境を作ることが重要です。また、従業員が一人で対応しなければならない状況を避けるために、複数人体制を敷いたり、他の従業員がすぐに駆けつけられるような体制を整えることも効果的です。
相談窓口の設置
カスハラを受けた従業員が相談できる窓口を社内に設置することが重要です。相談窓口は、人事部や総務部などが担当したり、外部の専門機関に委託することもできます。相談窓口には、以下の様な役割が求められます。
- 従業員からの相談に迅速かつ丁寧にヒアリングを行う
- 状況に応じて、適切なアドバイスや情報提供を行う
- 必要に応じて、専門機関への紹介や連携を行う
相談窓口の存在を従業員に周知徹底し、相談しやすい雰囲気作りをすることが重要です。また、相談内容の秘密は厳守し、二次被害が発生しないよう配慮する必要があります。相談窓口は、従業員にとって安心して働くための重要な役割を担っています。相談しやすい環境を整え、従業員が安心して相談できる窓口を設けることが大切です。
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また、下記過去記事も併せてご参照いただけると幸いです。
コールセンターをアウトソーシングしたら実際いくらなの?最低料金は月額3万円!
カスタマーハラスメント(カスハラ)の実態~相談窓口は外注した方が賢明な理由~
ハラスメント相談窓口をアウトソーシングした結果起こったこと5選
これらの対策を総合的に実施することで、カスハラを未然に防ぎ、従業員が安心して働ける職場環境を実現できるでしょう。カスハラ対策は、企業にとって従業員を守り、企業価値を高めるための重要な投資と言えるでしょう。
個人でできるカスハラへの対処法
カスハラは企業側の問題であるとともに、働く個人にとっても深刻な問題です。被害者になることを防ぐには、いざというときに適切な対応をとることが重要です。ここでは、個人でできるカスハラへの対処法を具体的に解説します。
冷静さを保ち、感情的にならない
カスハラを受けているときは、恐怖や怒りを感じてしまうのは当然のことです。しかし、感情的に反論したり、泣き出したりしてしまうと、相手を刺激し、状況を悪化させてしまう可能性があります。まずは深呼吸をするなどして、落ち着いて対応できるよう努めましょう。
毅然とした態度で、はっきりと断る
相手が要求してくる内容が理不尽な場合や、対応に困る場合は、毅然とした態度ではっきりと断りましょう。あいまいな態度や言葉づかいは、相手に付け入る隙を与えてしまう可能性があります。「申し訳ございませんが、そのご要望にはお応えできません。」「そのような対応はいたしかねます。」など、明確な言葉で伝えることが大切です。
相手の要求がエスカレートしてきたら、距離を置く
冷静に断っても相手の要求がエスカレートしたり、暴言を吐かれたりする場合は、これ以上対応を続けることは危険です。その場を離れるか、上司や警備員などに助けを求めましょう。身の安全を最優先に考え、無理な対応は避けましょう。
記録を残す
カスハラを受けた日時、場所、状況、相手の言動などを詳細に記録しておきましょう。録音や録画が可能であれば、証拠として残しておくことも有効です。ただし、録音や録画は法律で制限されている場合もあるため、事前に確認しておきましょう。記録は、後々、会社や労働基準監督署などに相談する際に役立ちます。
相談できる窓口を活用する
一人で抱え込まず、上司や同僚、人事部、相談窓口などに相談しましょう。会社としてカスハラ対策に取り組んでいれば、適切なアドバイスやサポートを受けられるはずです。また、外部の相談機関として、労働基準監督署や法テラスなども活用できます。
我慢しすぎないことが大切
カスハラは決して許される行為ではありません。しかし、現状では泣き寝入りせざるを得ないケースも少なくありません。我慢し続けることで、心身に不調をきたしてしまう可能性もあります。一人で抱え込まず、周りの人に相談したり、専門機関に助けを求めたりするなど、自分を守る行動を起こしましょう。
知識を身につける
カスハラに関する知識を身につけておくことも重要です。消費者庁のウェブサイト「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」など、参考になる情報が公開されています。また、企業によってはカスハラ対策の研修を実施している場合もあるため、積極的に参加してみましょう。
カスハラは社会全体で解決すべき問題です。一人ひとりができることから始め、より働きやすい環境を作っていきましょう。
まとめ
顧客からの無理な要求や暴言など、カスハラ(カスタマーハラスメント)は、働く人にとって深刻な問題です。カスハラは精神疾患を引き起こすこともあり、実際に労災認定されるケースも出てきています。企業は、従業員を守るための対策を講じる法的、道義的責任があります。従業員教育や対応マニュアルの整備、相談窓口の設置など、具体的な対策を進めましょう。個人レベルでも、落ち着いて対応する、記録を残す、上司や外部機関に相談するなど、適切な対処が必要です。カスハラを許さない社会を実現するために、企業と個人が協力していくことが大切です。